2024年 フィットネス業界の広告トレンド

fitness advertising trends

 「腹筋ローラーやステップボードの深夜のテレビコマーシャル」と聞いて、ピンと来る人も多いのではないでしょうか。あるいは、腰にメジャーを巻いた人の「ビフォー&アフター」写真を載せて「1日で10Kg減量!2週間でシックスパックを実現!」などと訴えかける雑誌広告も見覚えがあるでしょう。しかし、すでにそのような時代は過ぎ去ったように思います。

ネット上ではいまだに「真実味のない」減量を煽る謳い文句が多く見られますが、フィットネス関連の広告の多くは近年、総じて良い方向に変化しています。ほとんどのフィットネスブランドは、より本格的な施策への取り組みを強化しています。テレビや雑誌広告による一方的なコミュニケーションは、もう通用しません。代わりに、ユーザーと交流し、質問に答え、さらにはプロダクトを中心としたコミュニティを構築することに目を向けるべきなのです。

フィットネスブログやSNSのおかげで、ユーザーとより「リアル」な関係を築くことができるようになりました。しかし、そのためにはまず、ユーザーのアテンションを獲得する必要があり、そこで「広告」の出番となるわけです。

新たな常識-健康志向

パンデミックを経験して以来、私たちは人生を少し違う目線で捉えるようになりました。最も兼著な例でいえば、「バランスの取れたライフスタイル」が主流になりました。広告にもこの変化は反映されています。

つまり、「もはや外見、見た目の美しさだけではなく、内面や気分も最高でなければならない」という具合です。メッセージで表すと「社会に合わせて自分を変える」から 「自分のために自分を変える」というイメージでしょうか。この 「内面にフォーカスする」という動きは、フィットネス界の爆発的な成長に貢献しています。例えば、フィットネス機器の売上は2020年には90億ドルを超え、毎年着実に成長しているため、2028年には144億ドルという驚異的な規模に達する勢いです。

トレーニングウェア、フィットネスクラブ、ウェアラブル技術、ジムなど、他のフィットネス分野も同様の成長パターンを示しています。こうした成長トレンド、チャンスを逃さないために、4つの主要なフィットネス業界の広告トレンドをご紹介いたします。

1. インフルエンサーマーケティングの台頭

驚くべきことではありませんが、フィットネス広告において、インフルエンサーは非常に影響力を持つようになっています。

他の誰かのフィットネスへの向き合い方を知ることで、人々はちょっとした後押しをして欲しいと感じているのです。「この人ができるなら、私にもできる!」と。自宅のリビングのヨガマットの上から、彼らを応援することができるわけです。

また、ここ数年、「マイクロ・インフルエンサー」や「ナノ・インフルエンサー」という面白いトレンドも生まれています。彼らは、少人数で結束が固く熱心なフォロワーを持つインフルエンサーのことで、こうしたインフルエンサーがブランドを宣伝することで、熱心なユーザーにそのブランドを宣伝することになり、フィットネスブランドやプロダクトにとっては非常に強力な広告となります。

フィットネス広告の例 #1:Alphalete

Alphaleteは、フィットネスの第一人者であるChristian Guzmanによって2015年に設立されたトレーニングウェア業界の新星です。
このブランドは、オンライン上で人々の話題を集めることに成功しています。2019年から2020年のわずか1年間で、Alphaleteに関する話題は53%増加し、Earned Media Value(EMV):約3000万ドルを稼いだことになります。
Alphaleteの秘密といえば、ブランドを愛するアスリートやインフルエンサーの結束の強いグループです。これらのファンは、Alphaleteに関するオンライン上の話題の87%を占め、Alphaleteを世に広めるために多大なる貢献をしています。
彼らはまた、単なるトレーニングウェアの枠を越えて活動をしています。Alphalandという新たなフィットネスセンターを立ち上げ、そこでインフルエンサーたちが自由に撮影やコンテンツ制作を行えるようにしたのです。
このアイデアは天才的に素晴らしいものであると言えるでしょう。なぜなら、ジムの利用者からの収益を得ると同時に、大量の「無料」広告効果を獲得することができているのです。

2. データ主導のキャンペーン

フィットネス業界の広告はこれまで以上にデータによって形成されるようになっています。

「今すぐ健康になりましょう!」、ただ「トレーニングしてください!」という時代は終わりました。人々は溢れかえる様々なコンテンツに囲まれているため、本当に目にとめてもらうためには、個人としてユーザーに語りかける必要があります。

パーソナライズすること:超パーソナライゼーション

フィットネス業界の広告主は、ターゲットを絞ったユーザーに超パーソナライズされた広告を制作・配信するために、ますますデータを活用するようになっています。個人がパーソナライズされた広告を受け取ることで、ブランド企業が自分を理解してくれていると感じ、ブランドへの親近感が増します。

データに基づいた超パーソナライズされたフィットネス広告の実例をいくつかご紹介します:

  • ダイナミックなコンテンツのカスタマイズ

高強度インターバルトレーニング(HIIT)に関するコツを提供している、あるウェブサイトを定期的に訪問するユーザーを想像してください。ユーザーの興味関心データとコンテキスト広告を活用することで、そのようなオーディエンスがサイトを訪れた際に、関連するフィットネスコンテンツやプロダクトの広告が配信されるよう戦略をたて、設計することができます。結果として、そのサイトを訪問する傾向の高いユーザーのフィットネス関連の興味にリアルタイムで対応し、オンライン体験を向上させているのです。

  • コンテキストを使ったリターゲティング: 

例えば、誰かがあなたのウェブサイトでランニングシューズを見たものの、購入しなかったとしましょう。一般的なリターゲティング広告では、同じシューズが表示されるだけです。超パーソナライゼーションは、その人がなぜ最初にそのシューズを見たのかを知ることで、さらに一歩先をいきます。もしかしたらそのユーザーは「マラソンの準備の仕方」を読んでいたかもしれない。この場合、リターゲティング広告には「初めてのマラソンに最適なシューズ。スタイリッシュにゴールを通過する準備はできていますか?」というテキストが表示されるでしょう。

  • eメールキャンペーン: 

全購読者への一斉メッセージはやめましょう。セグメントされ、パーソナライズされたメッセージが必要です。過去の購入履歴やクリックされたリンク、顧客になってからの期間などに基づいてメールを送ることができます。6ヶ月前にダンベルを購入した人には、セール中のウェイトベンチのメールを送ります。メールではなるべくお名前で挨拶し、最後に購入した商品に言及することで、親近感を抱いてもらうようにしましょう。


尚、超パーソナライゼーションのメリットは沢山ある中で、注意点として、データのプライバシーは常に気をつけておく必要があります。ユーザーのデータを扱う際は、倫理を守り、関連法規を遵守することが最重要項目となります。

AIと機械学習 

もしNetflixが、あなたがロマンティックコメディが好きなのにアクション映画ばかりを薦めてきたら、と想像してみてください。素晴らしい体験とは言い難いですよね。

その代わりにNetflixは、AIと機械学習を活用してあなたの視聴行動、好み、嫌いなものを分析し、あなたが見る可能性の高いコンテンツを提供してくれます。

同様のテクノロジーは、フィットネス業界の広告にも活用できます。もしあなたがヨガに夢中なら、重量挙げの大会の広告を見たいと思うことはないでしょう。AIはユーザーのデータを分析し、広告主のコンテンツ配信先決定の自動化に活用されています。

ネイティブ広告

ユーザー体験の邪魔になりがちな従来のバナー広告とは異なり、ネイティブ広告はそのプラットフォームにシームレスに溶け込みます。ページ上の他のコンテンツと同じように見え、同じように感じられるため、ユーザーはより積極的にネイティブ広告と関わるようになります。フィットネスの世界でネイティブ広告がどのように機能するか見ていきましょう。

  • コンテキストが重要: 

健康に関するブログに「筋肉回復のためのスーパーフード10選」という記事があったとしましょう。プロテインシェイクのレシピを紹介するネイティブ広告は、この記事の最後に、おすすめの読み物として表示される可能性があります。オーディエンスはすでに筋肉の回復について読んでいるので、コンテンツに興味を持ち、広告リンクをクリックする可能性が自然と高くなります。

  • ソーシャルメディアプラットフォーム:

 Instagramはフィットネスコンテンツで溢れているため、ネイティブソーシャル広告が効果的です。フィットネスに関心のあるユーザーのフィードにフィットネスプロダクトやコンテンツのネイティブ広告を掲載することは、ブランドについてさりげなく言及し、認知度を高める素晴らしい方法といえます。

  • フィットネスアプリとの接続:

 フィットネスアプリは、力強く安定したペースで成長しています。2023年、世界のフィットネスアプリユーザーは8億人と推定され、2028年には12億人を超えると予想されています。フィットネスアプリにネイティブに統合されたフィットネス関連プロダクトやサービスの広告は、自身の健康と幸福に積極的に取り組んでいるユーザーにリーチする素晴らしい方法です。例えば、カロリーカウンターアプリを利用しているユーザーがいれば、低カロリーのミールキット宅配サービスのネイティブ広告がヒットするかもしれません。

  • リターゲティング: 

フィットネス関連サイトを訪問したが、まだコンバージョンに至っていないユーザーがいる場合、その人が定期的に訪問しているウェブサイト(ニュースやエンターテイメントサイトなど)に関連広告を掲載するリターゲティングは、その人にみなさまのブランドを想起させ、再アクセスを促進する最適な方法です。 

  • カスタマージャーニーマッピング: 

ネイティブ広告は、カスタマージャーニーのさまざまな段階に合わせて調整することができます。例えば、初心者は「初心者用トレーニングキット」のネイティブ広告を見るかもしれないし、既にジムに通っている上級者は「上級者用ウェイトリフティングギア」の広告を目にすることになるかもしれません。

ウェアラブルテクノロジー

例えば、あなたが今使っているランニングシューズで100マイル(約160Km)を走りきった際に、新しいランニングシューズの広告が表示されることを想像してみてください。ブランドにとっても、そしてあなたにとっても、とても有益な広告と言えるのではないでしょうか。

ウェアラブルは、パーソナライズされた広告体験を生み出すために使用できる生体データを収集します。もしあなたが有酸素運動に打ち込んでいるなら、心拍数モニターや高エネルギーサプリメントの広告を目にするようになっても驚かないでくださいね。

フィットネス広告の例 #2:Rebel

Rebelはオーストラリア有数のスポーツ用品の小売業者です。質の高いウェブサイトのトラフィックを促進し、CPCを最適化する必要があったRebelは、Outbrainを利用しました。ネイティブ広告キャンペーンを活用し、プレミアムパブリッシャーを通じて健康とフィットネスのファンをターゲットにすることにフォーカスしました。結果は、CTRが20%向上し、CPCが22%削減されました。毎月21,000人のユニークビジターが訪れ、OutbrainはRebelにとって不可欠なパートナーとなり、シンプル且つ効果の高いネイティブ広告の力が証明されました。

3. 信頼がすべて

信頼は、飽和状態にある今日のフィットネス市場において最も強力な差別化要因の1つです。ポテンシャルの高いユーザーは、ウソの約束(「1週間で10Kg痩せる!」など)を警戒し、本物、正直であり、語られている価値観やコンセプトに忠実であると思われるブランドに自然と目を向けます。結局のところ、フィットネスとは、自分の限界を打ち破り、目標を設定し、自己向上に努めることなのです。よってユーザーは、自分自身の願望を反映しているフィットネスブランドを探し、投資する決意を固めるのです。

エモーショナル・ストーリーテリング ー 効果的な理由

エモーショナル・ストーリーテリングとは、ユーザーを操作することではなく、より深いレベルでユーザーとつながることを意味します。健康になるのは簡単なことではなく、山あり谷ありです。逆境を乗り越えた個人的な勝利の物語を語ることで、ユーザーは自分が見られていると感じ、理解してもらえたと感じます。本物の変化へのストーリーを取り入れることで、単にプロダクトを売るのではなく、感情的なニーズに対する解決策を提供することになるのです。自信を抱かせたり、達成感を与えたり、同様の感情を持つ人々のコミュニティを築いたりすることさえできます。本物の幸福感を生み出すことは、永続的なインパクトを醸成し、ブランド・ロイヤリティの構築に繋がります。

おおげさな表現が招く現実

ストーリーテリングは効果的な方法ですが、現実的である必要があります。場合によっては、ブランドの信頼を著しく損なう可能性があるからです。みなさまのフィットネスプロダクトを、あらゆる問題を解決することができる魔法のように見せたいのは容易に理解できます。しかし、約束を果たせなければ、一度の売上以上のもの、信頼をも失うことになります。誰もがスマホを持っているこのデジタル時代においては、否定的な経験は瞬く間に拡散され、他の潜在顧客を遠ざけてしまいます。

フィットネス広告の例 #3:Gymshark

Gymsharkは、近年最も有名なスポーツアパレルブランドのひとつに成長した企業です。彼らは、本物のストーリーとインフルエンサーマーケティングを強力に組み合わせて、急速に持続的な成長を達成しました。
GymsharkのPR責任者であるステファニー・オニール(Stephanie O’Neill)氏は、同社が最初に掲げた理念が今でもすべてのプランニングの指針になっていると語っています。
「本物であることがすべてです。Gymsharkのアンバサダーの大半は、かつてこのブランドのファンであり、ユーザーでした。実際にGymsharkを愛している人たち以上に、ブランドを代表する人たちがいるでしょうか?」

4. ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)

ユーザーはかつてないほど多様化しており、その多様性を反映した表現が求められています。人種、性別、体型、年齢、能力など、フィットネス広告にはダイバーシティが必要なのです。これは単に「正しいことをする」というだけでなく、賢いビジネスの手法です。

広告を多様化すれば、「私たちのブランドはみんなのものです!」という明確なメッセージを発信することができます。これによって、これまで見過ごしたり過小評価していた市場への扉が開かれることにも繋がるでしょう。また、単に多様なモデルを起用するだけでなく、提供するプロダクトやメッセージ、さらには様々なユーザーにリーチするために利用するプラットフォームを調整することも重要です。

しかし、時には慎重になることも必要です。ダイバーシティとインクルージョンは素晴らしい思想なのですが、広告キャンペーンは慎重に進行しなければ、驚くほど簡単に失敗してしまいます。体裁だけを繕っていたり、中途半端なジェスチャーは、リーチしようとしているユーザーを逆に疎外してしまう可能性もあります。また、ブランドの評判にダメージを与える可能性があることは言うまでもありません。ですから、時間をかけて耳を傾け、リサーチし、そしておそらく最も重要なことは、みなさまがサービスを提供しようとしているコミュニティと関わることです。

ここでも、信頼が鍵となります。みなさまのユーザーは、中途半端な努力を数Km遠くからでも見抜くことができるでしょう。結論として、もしみなさまがダイバーシティとインクルージョンを受け入れていないなら、既に大きなチャンスを逃しており、今後取り残されてしまうリスクがあります。

フィットネス広告の例 #4:Nike

Nikeは紹介するまでもなく、マーケティングにダイバーシティとインクルージョンをいち早く取り入れてきた企業です。
Nikeの 「Until We All Win 」キャンペーンは、人々をひとつにすることをテーマにしています。スポーツが地域社会にどのような変化をもたらすことができるかを示し、現代の若者にインスピレーションを与える多様なアスリートやアーティストのストーリーを紹介しています。プライド月間中、Nikeは「BeTrue 」キャンペーンを通して、LGBTQIA+ の権利の覇者であるアスリートを称えました。
ダイバーシティを受け入れることで、Nikeは、誰であろうと、どこの出身であろうと、誰にでも公平なチャンスがあるべきだということを示したいのです。そして、Nikeは口先だけでなく、あらゆる背景、民族、年齢、性別、体型の人々をよりよく表現するために行動を起こしています。

今後のトレンド

  • VRとAR(拡張現実):

 これらのテクノロジーは、没入型のフィットネス体験を提供します。特に障害や移動に困難があるなど、よりアクセスしやすいフィットネス・ソリューションを求めているユーザーをターゲットにした広告という点では、素晴らしいインクルージョンを体現することになるでしょう。

  • ゲーム化されたフィットネスアプリ:

ポイント、バッジ、リーダーボードなどの機能を使うことで、フィットネスアプリはより楽しく魅力的なものになります。これらの要素はユーザーのモチベーションを高め、競争意識を高めます。広告でこれらの機能を強調することで、より多くの人をアプリに惹きつけることができるでしょう。

  • ホリスティックな健康アプローチ: 

このトレンドは、肉体的な運動だけを強調するのではなく、感情的・精神的な健康も含めたバランスの取れたアプローチを目指すものです。ストレス解消、マインドフルネス、栄養について語る広告は、健康とフィットネスへのより包括的なアプローチを求める人々の心に響くことでしょう。

  • IoT対応フィットネスデバイス:

 次世代ウェアラブルデバイスは、単に歩数をカウントするだけではありません。パーソナライズされたトレーニングプランの作成に役立つ多様なデータを収集。このような先進的な機能を広告で強調することで、運動がいかに効果的でパーソナライズされたものになるかを示すことができます。

  • バイオハッキング:

 自己改善における成長トレンドであるバイオハッキングは、人間の能力を高めるためにインプラントを含む技術的介入を行うものです。最適なフィットネスを追求するために、人々がどこまで進んでいるかを示す興味深い方法となりうるでしょう。

  • メタバース・ウェルネス:

 フィットネス業界は単にデジタル化しているのではなく、メタバースにも足を踏み入れています。ブランドのバーチャルな存在を広告することで、マーケティング戦略にスリリングでモダンな要素を加えることができ、テクノロジーに精通したユーザーの想像力をかき立てることができます。

まとめ – 2024年のフィットネス業界広告トレンド

今後も続くインフルエンサーマーケティング

インフルエンサーマーケティング、特にマイクロインフルエンサーとナノインフルエンサーが持つ力は、誇張しすぎることはありません。人々は彼らを信頼し、彼らの話に耳を傾け、そして最も重要なことは、彼らが勧めるものを買う傾向が高いということなのです。

データに基づくパーソナライゼーションの力  

ブランドは今、あらゆる種類のデータとAIツールを使って、ユーザーの目に留まるよう努力しています。ただ壁に向かって何かを投げかけて、何が刺さるかを見るだけではありません。ユーザーが何を欲しているのかを正確に把握する必要があるのです。

信頼とインクルージョン(包括性) 

画一的なメッセージングの時代は終わりました。ユーザーは、リアルなストーリーと多様な人々を見たいのです。ですから、もしあなたがフィットネスブランドで、ユーザーとの永続的な関係を築きたいのであれば、リアルな情報を発信し続ければ間違いはありません。

*このブログは、2023年11月にOutbrain Incから発表されたものを意訳したものです。