コンテンツ戦略の起点は『見つけてもらうこと』にある

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(本記事は、DIGIDAY[日本版]からの転載となります)

コンテンツマーケティング全盛期のいま、単なる流入獲得装置としてだけでなく、フルファネルをカバーしたアプローチを可能とする、レコメンドエンジンが大きな関心を集めている。

もともとは、パブリッシャーが運営するメディアの関連記事枠ソリューションだったレコメンドエンジン。現在は、個々のユーザーの興味・関心に応じたレコメンドを行えるほどまでに進化している。しかし、その場所はブランドにとっても、未知なる可能性を秘めた、新しいマーケティングの舞台だった。

独自のレコメンドエンジンで「フルファネル・コンテンツマーケティング(Full Funnel Content Marketing)」を標榜するアウトブレインジャパン 社長である嶋瀬宏に、パブリッシャー企業やクライアント企業に提供する独自価値や、今後コンテンツマーケティングをいかに進化させていくかについて話を聞いた。

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いまなぜ、レコメンドエンジン企業が注目を集めているのでしょうか?



2006年に設立され、現在はニューヨークに本社を構えるアウトブレイン(拠点は世界に15拠点)は、数年に渡る研究開発および数万を超えるブログサイトでの実証実験を経て、2009年より本格的にコンテンツレコメンデーションのサービスを開始しました。現在は、150カ国でサービス展開していますが、このサービスを提供開始してからの7年間において、環境の変化へ大きな影響を及ぼしたもののひとつに、情報の氾濫があります。

これまでユーザーの情報入手起点は、まずポータルサイトによるワンストップの情報提供にはじまり、次に検索サービスによる個々のニーズに応じた情報取得、そしてSNSの台頭により最近では個々のフィードへと移り変わってきました。ですが、現在、存在するWebサイトは10億を超えるといいます。これほど情報が増えると、新たな情報の取得方法が必要になります。

なぜなら、もっとも一般的な情報取得方法だった検索エンジンは、「すでに知りたいことがわかっている」コンテンツを探すもの。膨大なページのなかから「興味はあるけど存在を知らない」コンテンツを見つけることはできません。

しかも、ユーザーの選択肢が増え、ひとつのメディアですべての情報を得ることは難しく、メディアとの接触は断片化してきました。その傾向は、モバイルシフトによりさらに加速しています。そうした状況のなか、個々のユーザーに対して、それぞれのニーズに即した新しいコンテンツを提案できるのが、コンテンツレコメンデーションです。だから、いま注目を集めているのでしょう。


アウトブレインの仕組みについて教えてください。



多くのレコメンデーションは、あくまで「関連リンク」が基本的な考え方でした。たとえば、アメリカ大統領選のドナルド・トランプ候補の記事を読んでいる人に、トランプ氏に関連する情報をおススメするという具合です。

一方、アウトブレインのレコメンデーションは、紙の雑誌と同じような考え方に立っています。つまり、政治記事の次に経済記事が存在するように、アウトブレインでもとある政治記事に触れたユーザーへのオススメとして、一見関連のないスポーツ記事を紹介するというようなことが起こります。つまり、コンテンツを「見つける」「出会う」楽しさをデジタル上で実現したのです。これが当社の「ディスカバリー技術」です。

その仕組みは、50以上もの独自アルゴリズムで、当該の記事を読んでいるユーザーが、次にどんな記事を読む傾向があって、どんな関心をもっているかをリアルタイムで推測してレコメンドするもの。もちろん読んでいた記事の関連性も見ていますが、その人の嗜好以外にも、嗜好の類似したほかのユーザーの傾向や、閲覧するデバイスおよび時間帯も考慮しています。

なかでも、「ディスカバリー技術」の最大の特徴となるのは、過去のデータ活用に留まらず、「計算された偶発的な出会い」を演出できるところ。それによって、ユーザー自身も気づいていない潜在意識を引き出し、さらにそれを継続的に学習していくことができるのです。

開発部門では120人以上のデータサイエンティストが、ビッグデータを分析し、分析アルゴリズムの開発・調整も日々実施。これもアウトブレインならではの独自の強みといえるでしょう。


パブリッシャーからはどんな評価を得ていますか?



我々がパブリッシャーから評価されているポイントは、「ユーザーファースト」というコンセプトです。短期的視点で、ユーザー獲得や内部回遊向上および収益改善の施策を行うのではなく、ユーザーと向き合い、長期的な成長を一緒に考えるパートナーと評価されています。

また、我々のサービスを採用しているCNN、タイム社(Time Inc.)、FOXニュース(Fox News)をはじめとする、世界中のリーディングパブリッシャーの現在の課題解決に終始することなく、将来の課題にも応えるべく常に進化を続けています。そうした意味では、我々のサービスは業界をリードするパブリッシャーの英知の結晶であるともいえるでしょう。

こうした評価により、月間のユニークユーザーは、グローバルで5億人。国内でも大手新聞社や通信社、ポータルをはじめとするリーディングパブリッシャーに採用いただき、デスクトップが1900万人、モバイルが2650万人のユニークユーザーに利用されています。

保有するビッグデータは、レコメンデーションの精度と直結します。多くのパブリッシャーに評価され、ユーザーに利用していただくことで、さらにレコメンデーションの精度が高まっていきます。

 

Outbrainについてさらに詳しく知りたい方は、CEOのインタビューをご覧ください。



ユーザー体験を高めたら、収益化も狙えますね。



ユーザーが見るWebサイトはひとつではありません。ユーザーにとっては、パブリッシャーのサイト外のコンテンツも同じコンテンツ体験のひとつなのです。ならば、自社ユーザーが最終的に外部サイトへ遷移しても、ユーザー体験という意味で、結果的に自社コンテンツですべてやりくりするより、よりバラエティのあるコンテンツを提供できるため有益だという風にパブリッシャーにはご説明しています。

これだけモバイルやソーシャルメディアが発達し、コンテンツ起点でユーザーが流入する現状において、自社サイトだけでユーザーを囲い込むことには限界があります。我々は、長期的なスパンでユーザーの体験を高め、何度も来訪してもらうように設計しています。いわばユーザーのLTV(ライフタイムバリュー)を高め、その流れに広告(=企業のコンテンツ)を挿入することで、パブリッシャーの収益に貢献したいと考えています。

ブランドによるマーケティング活用はどのようにはじまりましたか?



もともとアメリカでは、パブリッシャー向けにビジネスがスタートしましたが、クライアント向けビジネスは2010年ごろからはじまりました。日本ではサービスインした2014年4月から、パブリッシャー向けとクライアント向け、両方のビジネスを同時にスタートしています。

当初から、クライアントには、顕在顧客ではなく、潜在顧客に向けた、認知獲得のための新しいトラフィックの集客方法としてコンテンツレコメンデーションをご利用いただいてきました。しかし、ユーザーの購買プロセスの変化、そしてレコメンデーション技術の進化により高度な施策設計が可能となったことから、現在ではマーケティングファネル全体におけるユーザー体験を高めるプラットフォームとして、我々の「ディスカバリー技術」をご活用いただいています。幅広いユーザーの認知獲得から、ユーザーとのエンゲージ、そしてコンバージョンを意識した配信までが可能となっているのです。そのことを伝えるために、我々は、まだクライアント認知を増やしていかないといけない段階にあるでしょう。

その一方、マーケティング全体のなかで、我々のプラットフォームの活用方法を考えるクライアントが徐々に増えてきているのも事実です。単純にクリックあたりの広告コスト(CPC)が高いか安いかという議論ではなく、代理店を含め、我々と一緒にコンテンツ戦略を作るという動きが加速しています。

クライアントのマーケターからはどんな評価を得ていますか?



クライアントが抱える課題で多いのが、「ターゲティングだけでは、新規顧客が開拓できない」「ターゲティングでユーザーを獲得していたが、運用を続けているうちにCPAが上がってきてしまった」というものです。

たとえば、保険会社のクライアントの場合、ユーザーの契約タイミングは、就職、結婚、出産など人生の節目となります。そこで、従来のやり方では、自社もしくは第三者プラットフォームが保有する性別・年代・嗜好などのデータに基づきターゲティングされたバナー広告を打つか、ターゲット層と類似するユーザーへのオーディエンス拡張などを行ってきました。

しかし、仮に年代、収入、家族構成などの傾向が同じでも、必ずしも同じ人生の節目を迎えているとはいえませんし、同一人物であっても、コンテンツを閲覧する時間帯で別の嗜好があるかもしれません。また、ターゲティングの精度を細かくしすぎてしまうと、十分なリーチを担保することが難しくなります。従来のターゲティングの限界はそこにあります。

その反面、たとえば、出産を控えた親しか興味がないコンテンツを用意し、それを起点にしてアウトブレインのような興味や関心に応じたレコメンデーションで、幅広いユーザー層にリーチしてターゲットユーザーを獲得すれば、9カ月以内には出産という契約のタイミングを迎えるユーザーとの接点を新規に得ることができます。20代女性と絞るのではなく、そのコンテンツ自体に興味がある人をターゲティングするんです。想定されるすべての顧客セグメント向けにコンテンツを用意すれば、最終的にはすべての潜在顧客との接点を得ることができます。また、集客する際、セグメントごとに適切にカスタマイズされたクリエイティブを掲載できますので、CTRも高まるし、エンゲージメントも高まります。結果的に、顧客獲得コストも下がるわけです。

業種・業態を問わず、我々のプラットフォームを利用することで獲得したユーザーは、コンテンツに興味があって、読みたくて来てくれたユーザー。なので、その後のエンゲージが高いという評価をクライアントからは得ています。

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DMPと連携すれば、さらに高い効果を得られそうですね。



その計画も進行しています。というのも実際、商品購入に至るまで、平均で10.4回情報に触れるというデータがあるように、1回のコンテンツ接触でコンバージョンとはなりません。コンテンツマーケティングは、長期的スパンで複数回の接点を通して、ユーザーとの関係を強化するマラソン的発想が必要なのです。

そこで重要になってくるのが、データを活用し、繰り返しアプローチするユーザーの「プール」が、意図するユーザーで構成されているかを検証することです。仮に、DMPとの照合の結果、集めているユーザーがターゲットとの乖離が認められる場合、コンテンツのチューニングをしていく必要がある。DMPとの連携により、こうしたPDCAサイクルを回していくことが可能になります。

なぜ「フルファネル・コンテンツマーケティング」なのでしょう?



コンテンツの配信方法は進化していますが、マーケティング活動全体として、我々だけでマーケティングファネルが完結するとは考えていません。コンテンツマーケティングと、リターゲティング広告などのバナー広告やソーシャル、検索広告と組み合わせ、フルファネルをカバーしたマーケティング効果の最大化を目指しています。また、さまざまな配信先から得られたデータを活用し、どのタイトルで、どの画像で、どの組み合わせで配信したコンテンツが、どのプラットフォームからどういうユーザーを連れてきたかを分析し、全体のPDCAに活用していくことも大事です。

我々は、クライアントのビジネス課題に対して、マーケティング戦略の全体最適化のお手伝いをするところに注力したいと考えています。ビジネスゴールから逆算して、ベストな配信方法を検討し、配信により得られたインサイトから次の改善を提案していきます。そして、パブリッシャーに対しても、クライアントから得たインサイトを活用して一緒に成長していきたいのです。

今後、アウトブレインはどんなように進化していきますか?



「ディスカバリー技術」の認知度は、まだまだ一般のマーケターまで浸透していません。その一方で、すべてのスタートは、ユーザーに「見つけてもらうこと」にあり、我々の「ディスカバリー技術」は、すべてのソリューションにおけるスタートポイントになり得るという確信もあります。

我々の変わらないミッションは、「人々が自分たちにとって興味があり、適切でタイムリーであると信じることができるコンテンツを発見するための支援をすること」です。これからもユーザーファーストでビジネスを進化させていきます。