いま、広告主が求める パブリッシャーの理想像と は?:データ中心の会話が要

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(本記事は、DIGIDAY[日本版]からの転載となります)

 

パブリッシャーが提供する「コンテンツ」の価値は、かつてないほど高まっている。コンテンツに触れた読者の体験が向上すれば、ブランドと顧客の「橋渡し役」になるだけでなく、ブランドサイトへのロイヤリティも強まるからだ。
しかし、デジタルマーケティングに積極的に取り組むブランドは、マーケティングパートナーとしてのパブリッシャーと、より強固な関係を構築していきたいと感じている。両者ともにデジタル化を推し進め、データ中心の会話を交わしていくことで、さらに大きな成果を上げられると考えているのだ。

 

アドバタイザーの本音

 

去る7月13日(水)に東京アメリカンクラブで開催された「アウトブレイン パブリッシャーサミット 2016」。そのセッションの一部「The New Relationship of Publishers andAdvertisers(パブリッシャーと広告主の新しい関係)」では、こうしたアドバタイザーの本音を垣間見ることができた。
 
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キリンの上代氏(左から2番目)、ライオンの中村氏(左から3番目)
 
今回登壇したのは、キリンCSV本部デジタルマーケティング部主幹の上代晃久氏と、ライオン宣伝部デジタルコミュニケーション推進室の中村大亮氏。そして、アウトブレイン ャパン株式会社の社長である嶋瀬宏。いまパブリッシャーは、広告主になにを求められているのか。また、お互いにどんな関係構築を目指していけばいいのか。セッションの内容を振り返りながら、紐解いていく。

 

データ中心の長期的な関係

 

かつて、Webメディアにおける企画や営業の経験をもち、その意味ではパブリッシャーの立場を知るマーケターである、ライオンの中村氏。現在は、アドテクノロジーを用いた製品のプロモーションや、同社のオウンドメディア「Lidea(リディア)」を通したコンテンツマーケティングなどに取り組んでいる。
これまでライオンとパブリッシャーとの関係は、従来どおり広告出稿側と、それに対するレポート提出側という断片的なものだった。これをデータ中心にした、より長期的な関係に変えていきたいと、中村氏は語る。
そうすることで、最適なブランドを、最適なタイミングに、最適なクリエイティブで、最適な枠・面に出稿できるようになり、マーケティングの全体設計を行いやすくなるというのだ。その考えに至った背景として、オウンドメディアで得られたデータを、店頭の売り場提案に活かした経験を挙げる。
 
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「スピード感を重要視している」とライオンの中村氏
 
あるとき中村氏は、先述の「Lidea」のアクセスデータから、布団・毛布類、カーテンといった「大物」に関するコンテンツへのアクセスが、ゴールデンウィークや年末などの長期休暇期間中に増加する傾向をつかんだ。そこで営業に働きかけ、ホームセンターなどに「大物洗い」の売り場を作ることを提案したという。つまり、オウンドメディアのデータから、特定の顧客に向けた売り場改善を行ったのだ。
「あまり複雑な分析をしていないところが施策のポイント」と、中村氏。「Lideaの記事は約500本。洗濯というカテゴリーでもすべてのジャンルをカバーしているわけではない。そのなかで、気づいた点をすぐに施策に移すスピード感を重要視している」。

 

メディアの「面」を生かすために

 

キリンの上代氏は、ソーシャルメディアの投稿分析による広告の精度向上に加え、最近ではAI(人工知能)のマーケティング活用にも積極的に取り組んでいる。そんな同氏は、メディア出稿のあり方に関して、3つの見解を述べた。
1つ目は「キリンにとって魅力的なセグメント・クラスター」についてだ。アルコール飲料という商品の特性上、ターゲットは20歳以上であることが求められ、10代が一定以上存在する媒体には出稿できない。そんななか「オーディエンスの好みの銘柄や飲用量、そして飲用頻度はデータ化できるか?」が関心事だと語る。自社商品と他社商品、その飲んでいる量や割合、頻度を可視化できるような「メディア独自のより深い分析データが欲しい」と注文した。
2つ目は「クリックよりデータ」ということだ。ブランドサイトをランディングページとした場合、クリックやコンバージョンは、ECサイトほどは重要ではない。大事なことは「この広告を見たあとに、ビールを飲みたい気持ちが高まった」という態度変容の要因を数値化できるかである。これに対して、パブリッシャーと広告主双方のデータを活用または交換することで、より適切な顧客セグメントを作っていくことができないかと考えているそうだ。
3つ目は「単発のメディアプランより、継続コミュニケーションによる全体でのROI最適化」だ。一つひとつのクリエイティブの勝ち負けや、メディアの勝ち負けを比べることは重要ではない。それよりも、顧客との継続的なコミュニケーションが構築できれば、「全体の勝率が一定量あるように最適化していくのも、ひとつのアプローチとなる」と、上代氏は語る。その場合に問われるのが、ROIに影響する「コンテンツ運用力」だ。
 
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「メディア独自のより深い分析データが欲しい」とキリンの上代氏
 
この3つを通して上代氏は、メディアが擁する独自価値である「面」を生かすために、データやセグメントの価値を高めて欲しいと呼びかけた。これに対し、中村氏も「広告主側でもタイアップの出稿先を『去年使ったところとは違うメディアで』などと、根拠がないまま決めている現状がある」と呼応。PDCAサイクルを確立し、効果検証と次回への改善を前提に、きちんとメディア側と取り組みたいとの展望を示した。


重要なのは態度変容の要因


こうした広告主側の提言に対し、アウトブレインジャパン社長の嶋瀬は、タイアップ広告の取り組みにおいて、次回施策につながるインサイトを得るため「何が態度変容の要因になったのか」を検証した事例を紹介した。具体的には、新商品を訴求するために、広告主から「性能訴求」「新機能訴求」「ブランド訴求」という異なる軸をもった3本の広告記事の提供があり、これらコンテンツに対して、複数のタイトル、複数のサムネイルでクリエイティブパターンを作り、Outbrainネットワークで配信。同時に、オープンDMPと連携し、ユーザーの趣味嗜好やデモグラフィックデータと掛けあわせて、最終的に商品ページおよびECサイトでの購入に至る「勝ちパターン」を検証する取り組みを行ったという。
「DMPの活用により、それぞれの広告閲覧の前後の検索行動が可視化できる。これによりユーザーが普段どんな検索を行っており、そのユーザーに対してどんなコンテンツを見てもらえれば態度変容に至るかが関連づけられた」と、嶋瀬。「配信を行うほど知見が貯まり、より投資対効果の高いコンテンツ作りにつながる。アウトブレインでは、このようなトライフィック獲得に留まることなく、次の施策につながる配信を積極的に広告主へ提案している」。
こうして同社では、ユーザーのコンテンツ閲覧傾向に基づくコンテンツ作成を支援。データドリブンなコンテンツマーケティングを求める広告主に支持されているという。
また、エンゲージメントやアクションなど、さまざまな指標に最適化した配信も可能だ。たとえば、ユーザーによる「広告主サイトへの来訪」といった、特定アクションにつながるKPI設定を行った場合、アクションに寄与する相性の良いメディアへ自動的に配信を寄せ、CPC(クリック単価)も目標値に最適化する仕組みとなっている。費用対効果の向上により、広告主の入札単価・出稿予算が増え、結果としてパブリッシャーの収益向上にも寄与するという。
こうした取り組みを通じてアウトブレインは、広告主には外部とのデータ連携によるPDCAサイクルの確立。そして、パブリッシャーにはエンゲージ強化と高単価コンテンツの提供によるマネタイズ支援といった価値を提供している。
 
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「態度変容の要因の解明が重要」とアウトブレインジャパンの嶋瀬


嶋瀬の発言を受けて、「たとえば、健康というカテゴリーフラグのなかにも、どういう関心が健康志向のなかにあるのか、もっと深いところまでインサイトを得たい」と、中村氏。メディア側から提示されるデータの活用についても、「自社で作ったペルソナが正しいかどうかの『答え合わせ』にも有効ではないか」と見解を示す。上代氏も、そのためのデータの洗い出しや整備は、「広告主側が自分たちでもやらなければならない領域だ」と、振り返った。


媒体社が明日からできること


では、パブリッシャーが明日からできることは何だろうか。これについて上代氏は「媒体資料を魅力的にして欲しい」と提言した。自社の商品がどのセグメントを狙っているか、そこに対応できるメディアはどれか、双方のセグメントを「キャッチボール」できることが理想的だ。
とはいえ、パブリッシャー側には、そこまで広告主1社に特化した、商品理解を行う余裕がないところもある。中村氏は、その点については理解を示したうえで、「メディアは業界ごとに営業が付く領域営業を行うのが通例であり、たとえば自動車業界の担当者が業界のことを知らないことはない」と語った。広告主は、いきなり個別商品に関する提案を欲しているわけではない。欲しいのは広告配信のジャッジにつながるインサイトだ。
たとえば、自分たちのメディアの読者は「クルマ」についてどう思っているのかということでもよいし、「レコメンドコンテンツ枠なら、自動車に関する広告は、映画のコンテンツの下に配置するとクリックされることが多い」といったことでもよい。個別提案の前に提案できることは、まだまだあるはずだと中村氏は語った。
 
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聴講者の多くはパブリッシャー。真剣にメモする姿が目立った
 
視点を変えて、提案のスピード感についてはどうか。コンテンツやデータには「旬」がある。広告主の決裁スピードという外部要因を見極めながら、パブリッシャーはどのような提案を行えばよいのだろう。
それについて問われた中村氏は、「データに向き合うスキル」の重要性を挙げた。スピード感を求めるクライアントには、旬のネタを提案する必要がある。だが、ライフイベントなら短期的な流行でないものもあるはずだ。そこを捉え、どちらに属するデータか峻別して、クライアントがどちらを求めているかを把握した上で提案して欲しいという。


拡大するパブリッシャーの役割


最後に上代氏はパブリッシャーに対して、どういうデータを重視するかというポイントを総括。「『ビール』が対象の商材なら、オーディエンスが求めるビールの周辺情報、たとえば食べ物やビアガーデンなど、なるべく具体的に示して欲しい」と語った。
アドバタイザーとしては「ビール好き」が見ている周辺情報に興味がある。極端にいえば「アニメ好きな人が飲んでいる飲料は何か?」といった情報に価値があり、そうしたインサイトの提示をパブリッシャーには期待しているという。
また、中村氏は、媒体資料を含め、自社メディアの強みに関する「明確なデータ」を示して欲しいと語った。「たとえば、ありがちな男性より女性が多いとか、年収いくらといった、ぼんやりしたデモグラ情報を列挙するのではなく、コンテンツ傾向、消費傾向に関して明確なデータを示してくれた方が、仮説が立てやすい」と、パブリッシャーに向けて奮起を促した。
有益なコンテンツ、インスピレーションを与えるコンテンツを提供していくことが、オーディエンスのエンゲージメント強化には不可欠だ。また、トラフィックの獲得やエンゲージメント確保の取り組み全般に共通した指標づくりには、多くのデータが必要とされる。加えて、集客チャンネル、それぞれに適した種類のコンテンツの作成も欠かせない。そんななか、デジタルマーケティングにおいて、パブリッシャーが果たしていく役割は、ますます大きくなっていくだろう。