コンテンツマーケティングの未来は「データ攻略」にあり:集客✕分析でファネル降下を促進

(本記事は、DIGIDAY[日本版]からの転載となります)

コンテンツマーケティングが進化する音が聴こえる。

ビジネスを最大化するために、自社コンテンツのオーディエンスを拡大していくことは、コンテンツマーケティングを実践している企業にとって課題のひとつだ。これまで、そうした新規オーディエンスの獲得施策は、SEOやSNS拡散などに大きく委ねられていた。しかし、最近ではコンテンツ戦略や集客戦略をPDCAの視点から再構築しようという動きが加速している。そのキーワードが「レコメンデーション」と「データ活用」だ。

去る4月25日、レコメンデーション・プラットフォームをてがけるアウトブレイン ジャパンは、DMP専業大手のインティメート・マージャー(以下、IM)との提携を発表。独自のレコメンドエンジンで企業のコンテンツマーケティング支援を行うアウトブレインと、約4億のオーディエンスデータを保有する国内最大級のデータマーケティングカンパニーであるIMがタッグを組むことにより、レコメンドしたコンテンツに接触したユーザーを可視化・分析することが可能になったという。

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エイタン・ガライ(左)と簗島亮次氏(右)

しかし、ひとことで「レコメンドしたコンテンツに接触したユーザーを可視化・分析することが可能になった」といっても、その具体的なイメージを描きにくいだろう。そこで、コンテンツマーケティングの未来を切り拓く、大いなる可能性を秘めた、この取り組みについて、アウトブレイン インターナショナル マネージングディレクターのエイタン・ガライと、株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長の簗島亮次(やなしまりょうじ)氏の対談を実施。今回の提携には、どんな意味が込められているのか、詳細を語ってもらった。

コンテンツマーケティングの問題点



まず、アウトブレインのガライは、コンテンツマーケティングについて、「ここ数年、継続的に続いているトレンドであり、デジタルテクノロジーの進化に伴い、より多くのブランドが積極的に取り組みはじめている」と、口火を切る。そして、「ブランドはコモディティ化しないために、ストーリーをもつ必要がある」という。

「そこで、ストーリーをどのように作り、どう伝えていくかという問題が出てくる」と、ガライ。「コンテンツマーケティングには3つのチャレンジがある。それは、『どのようなコンテンツを制作するか』『コンテンツをいかに適切な人に届け、見てもらうか』『どのように効果を計測するか』という、3つだ」。

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「ブランドはストーリーをもつ必要がある」とガライ

一方、IMの簗島氏は、大量のデータを保有するDMP事業者の立場から、「現時点における日本企業のコンテンツマーケティングは、マーケティングファネル上部の集客の役割しか担っていないことが多い。オウンドメディアでもネイティブアドでも、タッチポイントとしてのコンテンツへ効率的に集客を行う、SEOや広告配信などの手法・テクノロジーのみが議論の対象になってきた印象がある」と語った。

そして、現状におけるコンテンツマーケティングの課題について、「マーケティングファネルが分断していて、せっかく見込みの高いユーザーを保有しているのに、ファネルの下部へ誘導する手段がないという課題を感じる」と、指摘する。

「集客から刈り取り、エンゲージメント強化までが、まだまだワンストップで実施されていない現状がある」と、簗島氏。「その意味で、ファネル全体で横断的にデータを連携させ、分析、可視化できる今回の取り組みには、意義があると考えている」。


重要なことはPDCAの継続



それに付け加えるようにガライは、「我々はコンテンツマーケティングを、単にソーシャルの次のチャネルとしてではなく、オンライン、オフライン含めデータ中心に、どうマーケティングの全体設計に組み込んでいくかが大事だと考えている」と、語った。

ユーザーにとっての選択肢が増え、ひとつのコンテンツでコンバージョンまで至るのはなかなか難しいなかで、繰り返し、長期的にユーザーと接触していく必要性が高まっている。ユーザーがそのときに求めるコンテンツを接点に、ユーザーとの関係を構築する視点でコンテンツ戦略を考えていくことが大事ということだ。

続いて、ガライは、アウトブレインが提供するディスカバリー・プラットフォームと、IMが保有する約4億のオーディエンスデータにより、「アウトブレインから集客したコンテンツの読者を深く理解し、ターゲットペルソナに対する、より精度の高いコンテンツ制作や集客戦略のPDCAに役立てることが可能になった(下図)」と、今回の協業により実現できる価値について語った。

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「重要なことは、自分たちのコンテンツがどんな人に読まれ、どんなコンテンツがエンゲージメントを得ているか、データから得た知見を次のコンテンツ作りに生かして、継続性を高めていく点にある」と、ガライは指摘する。

DMP事業者が寄与できる点



簗島氏は、DMP事業者がコンテンツマーケティングに寄与できる点について、「新規顧客を獲得するためのコンテンツの作り方に関する、データに基づいた仮説が得られる点」を挙げる。

「データを分析することにより、たとえば、20代女性という属性情報に加え、『旅行』『コスメ』といった興味軸が見えてくる」と、簗島氏はアウトブレインとの提携のメリットを強調。「エンゲージメントを高めるコンテンツづくりのポイントを見出すために、データを活用することへ取り組んでいくことができる」。

さらに簗島氏は、「我々はオーディエンスデータとして、認知度の低い方から購入直前の方まで、あらゆるマーケティングファネルのデータを保有している。リターゲティングやアドネットワークといったファネル下部のテクノロジーに加え、フルファネルで我々のデータを活用するという意味では、ファネルの上部を担うアウトブレインとの協業は大きな価値がある」と、期待を寄せた。

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「フルファネルで狙えるようになる」と簗島氏

全世界でも最先端の取り組み



では、アウトブレインにとって、パブリックなDMP事業者との協業というのは、グローバルに先行した日本独自の取り組みなのだろうか。この点について、アメリカを除くすべてのエリアのマーケットを統括するガライは、「アメリカにおいてはDMP業者との協業の取り組みは、はじまっている」と、前置きする。

そのうえで、「DMPが保有するデータと我々のテクノロジーをどう使うかという点では、今回の日本での協業は、より長期的な視点で運用しており、グローバルで見ても、ほかのエリアに先行している。社内ケーススタディとして、ほかの国々へ転用する可能性を秘めている」と、位置づけた。

両社の協業ははじまったばかりだが、簗島氏によれば、「すでに、アウトブレインのレコメンデーションにより誘導してきたユーザーが、クライアントにとって適切なユーザーか、IMのデータを活用してユーザー像を明らかにしていく案件がすでにいくつか進行している」状況だ。

某大手家電メーカーの先行事例



たとえば、某大手家電メーカーでは、3つのブランデッドコンテンツに対して、アウトブレインのレコメンデーションから潜在顧客を効率的に集客。それぞれのコンテンツごとに設定されたペルソナと、実際にそれぞれのコンテンツへ集客できたオーディエンスのデモグラフィック情報の整合性や、最終的なコンバージョンに至るコンテンツとユーザー層の相関性を、DMPのユーザー分析により確認している。

ガライ氏は、「このクライアントはこれまで、新商品リリースのタイミングで毎回タイアップ記事を数本公開するが、効果が出たものとそうでなかったものがあり、次のキャンペーンで同じ体験を得られるコンテンツを作るためにはどうしたらよいかという課題があった」と語る。

そこで、前述のように切り口の違う3つのコンテンツを用意。複数のタイトル、複数のサムネイル画像のバリエーションのなかで、どの「コンテンツ」と特定のユーザー層との組み合わせが「商品詳細ページ」への遷移がもっとも活発であり、かつ「EC商品ページ」でのコンバージョンへの寄与度が高いかをIMのデータにより分析した(下図)。

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この調査では、次のような結果が出ている(下図)。まず、左のグラフ。「コンテンツ」から「商品詳細ページ」へ誘導する効率(CTR)は、コンテンツCがもっと高い。しかし、転じて右のグラフを見ると、「商品詳細ページ」から「EC商品ページ」への遷移率は、コンテンツBがもっとも高くなる。

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この結果が意味するのは、ただCTRだけを求めても意味がないということ。ターゲット層に対して、どのような体験を提供すれば、最終的なコンバージョンにつながるかを、しっかり計測することで、次の機会をより大きな成功に導くことができるのだ。

「コンテンツマーケティングには、『効果の測定』という課題があると述べたが、自分たちが考えるターゲット層に対して、どういうコンテンツが最適かというのは、データをもとに検証しないと、仮説の有効性が判断できない。従来は、滞在時間や直帰率というKPIだけで見ていたが、同じ滞在時間でも、ターゲット層の滞在時間かそうでないかで、当然ながら評価は変わってくる」と、ガライは語る。

IMとの連携により、本当にターゲットと考える層がセグメントできているかが可視化され、コンテンツが連れてくる顧客を予測し、その「勝ちパターン」を見つけられるようになったということだ。

コンテンツマーケティングの未来



最後に、今回の協業により、コンテンツマーケティングはどのように進化するかを聞いた。

ガライは、「すべてのブランドは、なにか伝えるべきストーリーがあって、それがコンテンツという形で世に出ている」と語ったうえで、「コンテンツマーケティングには、コンテンツの制作、集客、効果測定の側面があるが、コンテンツの流通や見せ方については、さまざまなテクノロジーが登場し進化したのと同様に、集客方法も進化しており、10年後の状況は現在とはまったく異なることは間違いない」と話した。

そのなかで、IMとのパートナーシップは「よりオートメーション化され、汎用的で、使いやすく、アクセスされやすいように進化していく必要がある」とし、「特定のコンテンツを探す、コンテンツの存在を知らないユーザーに届けられる『ディスカバリー技術』の長所を、さらに伸ばしていけるよう、IMとの協業で付加価値を提供していきたい」と、抱負を語った。

そのコメントを受けて簗島氏は、コンテンツマーケティングにおけるアウトブレインとの取り組みは、「コンテンツを起点に獲得したオーディエンスを行動によってタグ付けし、点を把握すること。そして、その点を結び、線にして、顧客獲得に向け、マーケティングファネルを下げていくという一貫した取り組みが重要だ。今後の協業も含め、企業のコンテンツマーケティング活動を2社でより強力に支援していく」と、締めくくる。

マーケティングファネル全体で、データを活用したコンテンツマーケティングを行うことの重要性は、さらに高まっていく。両社の協業により、価値あるユーザーを継続的に獲得していくための「フルファネル・コンテンツマーケティング」は、ますます加速していくに違いない。

 

エイタン・ガライ
Outbrain Inc. インターナショナル マネージングディレクター

シティバンク(Citybank)とシァルファイナンス(Clal Finance)の金融部門を経て、アウトブレインのファイナンスディレクターに就任。のちにビジネス担当バイスプレジデントとしてヨーロッパ地域の責任者を務め、アウトブレインビジネスの拡大に貢献。現在は、ヨーロッパ、アジアパシフィック、中東及びアフリカ地域を包括した北米・南米地域以外のエリアの責任者として、アウトブレインのグローバル戦略を指揮している。ヘブライ大学にて経済と統計の学士号とMBAを取得。

簗島 亮次
株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科を2010年首席で卒業。卒業後は、グリー株式会社にて、プラットフォーム開発に関連する複数の部門でマネジャーを兼務。RSCTC 2010 Discovery Challenge(世界最大級の統計アルゴリズム コンテスト)にて世界3位。日本最大級を誇る約4億のオーディエンスデータを用いて、企業のDMP構築やデータ活用マーケティングを支援している。

Written by 阿部欽一
Photo by 渡部幸和